《歯列矯正と顎の痛みのお話です。全ての矯正患者様に、症状が出るわけではありません。》
同じ時期に30代と40代の女性が、矯正後の顎関節の痛みと咬合不全(噛む位置がわからない)を訴え、来院されました。
お二人とも綺麗な歯並びをしており、一見して問題は見られませんでした。他科を受診して、異常なしと診断され、お困りのようでした。
それでは、30代女性の患者様の例をあげ、診断から治療をお話しします。
初診時にお話を伺ったところ、「矯正治療を3年半行い、終了後1年を経過した頃から、右のアゴが食事中に痛み、コキコキ音がする」とのこと。
症状として;右の顎関節が痛み出して、半年間痛みがあり、口が開きにい(開口障害)。
開口量は27mm(正常値40〜60mm)。
痛み75%(VAS:Visual Analog Scale 痛みの評価:伝えにくい痛みを数値化する)
開口量からも、顎関節内(関節円板の位置異常)に障害が出ているケースでした。
1、診断資料採取
咬合診断(確認かみ合わせの診断・アゴの関節との調和を診る)
上下のかみ合わせの模型を作成
フェースボウトランスファー(歯列と顎関節の関係を記録)
中心位(アゴ関節がリラックスした状態)
咀嚼筋触診(咬筋・側頭筋・顎二腹筋・胸鎖乳突筋の痛みを診る)
2、かみ合わせの分析
右の側切歯・犬歯・第一小臼歯の早期接触が認められる。(奥歯を噛むためには、噛みしめなければならない状態。)
3、筋触診
咬筋深部・側頭筋(前中後)に痛み+
【診断結果】
側切歯・犬歯・第一小臼歯の早期接触によって、奥歯を噛みしめようとして強い力を生じ、関節を痛めていると考えました。
治療として、
①TCH是正指導(歯を接触しないようにする)を最初に行い、
②かみ合わせの調整(咬合調整)、せっかく矯正した歯なので、慎重に数マイクロづつ調整。
③診査 開口量・筋触診・VAS(VAS:Visual Analog Scale)
②と③を2回繰り返した結果、
治療後は必ず、TCHの是正と収縮した筋肉のストレッチ(痛みのない範囲で)を心がけてもらい、
3ヶ月で開口量40mm・ 筋肉の痛み無し、まで回復しました。
今では何事もなかったように、普通に食事をされているようです。
冒頭に述べたように、全ての患者様が顎関節症になるわけではありません。
歯の硬さ・関節の丈夫さ・かみ合わせの悪さ・TCH・緊張の連続など、複合的な要素があります。
お二人の患者様は、「(かみ合わせが悪い個所を避ける反射が筋肉に記憶される)筋記憶(muscle engram)」と「TCH(歯牙接触癖)」・「食いしばり(クレンチング)」の複合的な症状でした。
Jeffrey P. Okeson. ;Management of Temporomandibular Disorders and Occlusion p37.
「(歯の接触にも、熱い物を手で触った時に反射で離す行動と同じ)かみ合わせが悪い個所を避ける反射」が、筋肉の痛みを発症させた、と思われます。
矯正に限らず、歯科治療の後にかみ合わせや関節の異和感を感じた場合、我慢せずに検査してください。
咀嚼筋は歯が接触しなければ収縮しません。TCH(歯牙接触癖)も意識してみましょう!
強い力で食いしばるより、弱い力で歯を長く接触させる方が、悪影響が強いことがわかっています。
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